【中編】もっちゅりん争奪戦・静かな決意と、思いがけない再会

▼3日目:静かな決意と、新しい出会い

そして翌朝。

私はさらに早く、開店45分前――午前8時15分には、いつもの店舗に到着した。

しかし、すでに2人の男性客が私の前に並んでいた。

心の中で「今日は3番手か……」と軽くため息をつきつつ、2番目の男性に声をかけた。

「お早いですね。いつから並ばれてますか?」

彼はにこやかに答えてくれた。

「私は少し前からです。でも、前にいる方は……朝の7時から並んでいるそうですよ」

――朝の7時。

もはや“ドーナツ争奪戦”という言葉さえ浮かぶ状況だ。

ただ、話していくうちに、この2番目の男性が自分と似た年齢であり、

「妻が食べたいと言うから」と、同じように家族のために並んでいることが分かり、なんだか心が和らいだ。

▼買い占め宣言と、静かに生まれる連帯感

一番先頭の男性にも、そっと視線を向けると――

年の頃は50代後半ほど。

彼は軽く頭を下げ、申し訳なさそうに口を開いた。

「すみません。もしかしたら、私、今日もっちゅりんをかなり買ってしまうかもしれません」

一瞬、何か事情があるのだろうかと思ったが、その後に続いた説明に、思わず言葉を失った。

「実は、会社の上司から“明日の朝、出勤前に買ってこい”って命令されてて……。

各種類6個ずつ、全部で24個頼まれてるんです」

つまり、ショーケースに並ぶ「もっちゅりん」ほぼすべてを一人で買ってしまう可能性があるということ。

私も、2番目の男性も一瞬呆然。

正直、3番目なら買えるだろうと腹を括っていた矢先のことだった。

だが、彼の表情には「申し訳ない」という気持ちがにじみ出ていた。

なにより、朝7時から一人で並んでいたという背景を思うと、怒りよりも、同情に近い気持ちがこみ上げてきた。

私と2番目の男性は目を合わせ、静かにうなずき合う。

「譲り合って買いましょう」

そう自然に、言葉がこぼれた。

▼早朝の静かなドラマ

そこには、ちょっとしたドラマがあった。

誰もが家族や仕事のために、朝の静けさの中に立っていた。

目的は同じ、たったひとつのドーナツ。

けれど、並んでいる人の背景には、それぞれの事情や思いがあった。

そして私は思った。

この“もっちゅりん・わらび餅”をめぐる3日間のチャレンジは、

ただの「買い物」ではなく、小さな人生の縮図のような気がした。

▼久しぶりの再会――もっちゅりん行列で生まれたもう一つの物語

先頭の男性からの「上司に頼まれて24個買う予定です」という衝撃的なカミングアウト。

一瞬、場の空気が凍ったように思えたが、「全種類を根こそぎではない」という説明を受けて、少し安心した。

2番目の男性とも「お互いに必要な分だけ確保しよう」と冷静に話し合えたことで、

その場に、静かな連帯感が生まれた。

私はスマホに手を伸ばし、並ぶ間に読もうとしていた電子書籍を開こうとした――そのとき。

視界の端に、ふと気になる人物が目に入った。

私から数えて7~8人ほど後ろ、距離にして3〜4メートル。

「……あれ?」

数秒の空白を挟み、脳のどこかがピタリと一致する。

――間違いない。

あれは、以前同じ部署で働いていた同期の友人だ。

▼かつての同期へ、ひとつの“恩返し”

彼は、私の心の支えだった。

職場が辛かったとき、上司と関係がうまくいかなかったとき、

何気ない冗談や励ましで、何度も救ってくれた。

その同期は、去年突然退職し、新しい道へ進んだ。

私はその背中を見送りながらも、心のどこかで寂しさを感じていた。

そんな彼が、今、あのもっちゅりんの列に並んでいる。

寝起きのような格好で、少し太ったようにも見えた。

私はLINEを送った。

「久しぶり。いまミスド並んでる?」

しばらくして、返ってきた返信。

「お久しぶりです。並んでますよ(笑)」

思わず笑ってしまった。

そしてお互いに、無言のまま軽く会釈を交わした。

でも――

私は少し迷った。

このままでは、彼の番まで“もっちゅりん”が残っているか分からない。

そこで再び、LINEを打った。

「前に並んでる人がほぼ買い占めるって言ってる。

必要な分あれば、俺が買っておこうか?」

すぐに返ってきた返信は、

「ありがとう。本当に助かる。

各種類1個ずつだけ買ってくれると嬉しい」

その瞬間、私はひとつの使命を背負った気がした。

自分と妻のために。

そして、かつての仲間と、その家族のために――。

私は、もっちゅりん争奪戦の3日目にして、初めて誰かの分まで背負って並んでいた。

▼いよいよ決戦のとき――もっちゅりん争奪戦、完結編へ

午前9時。

店の自動ドアが開き、ついに戦いの幕が上がる。

果たして、私の想いは届くのか。

もっちゅりん・わらび餅味は、無事に手に入るのか――。

そして、再会した同期と交わした“ひとこと”が、

この3日間をやさしく締めくくる。

いざ、もっちゅりん争奪戦・最終章へ。

※完結編では、店内で再会した同期との会話や、購入後の展開、そして現在の転職活動についてのやりとりなどを綴ります。

👉【完結編はこちら】(※リンク挿入予定)

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